本記事は、OpenStack Advent Calendar 2016の12月21日の記事である。
はじめに
ここ数年同人誌をコミックマーケットで出版してきた経験をもとに、これからコミックマーケットで技術系同人誌を書いて出版しようと考えているソフトウェアエンジニアの方々のために、役に立つ Tips をいくつか記そうかと思う。
なぜこの記事が OpenStack Advent Calender の記事であるかというと、自分のサークルのテーマが OpenStack であるためである。なのだが、この記事自体は OpenStack に1ミリも関係がないため、OpenStacker はそっ閉じしてもらって大丈夫である。ただし、コミケに来て同人誌買ってくれれば、ちょっとは仕事の役に立つことが書いてあるかもよ、とさり気なく宣伝しておく。
申し込み
サークルを組む
3人編成がベターかと。人員構成としては、絵師1人、原稿2人、当日の売り子はその3人で。当選後に送られてくるサークルチケットは各サークル3枚なので、これ以上サークルメンバーが増えると、当日の朝にビックサイトに入れないメンバーが出てくるので注意されたし。初参加のとき売り子を4人にしたせいで、サークル主催者の自分が一人で早朝から一般客として並ばなければならなかった、というのはここだけの秘密。
申込書
サークル参加申込書セットの入手が必要である。申込書セットは2通りの方法で入手可能。
入手方法 | 価格 |
---|---|
コミケ会場 | 1,000円 |
Web 通販 (https://shop.circle.ms/CShopping/List) | 1,600円 |
毎回コミケに参加しているなら、会場で購入するほうが安く済ませられる。
申し込みをする
サークル参加費は8,000円。申込方法はこの2通りである。
- 郵送
- Web (https://entry4.circle.ms/)
郵送の場合は、決済方法が郵便振替のみで、サークル参加費(8,000円)と振替手数料がかかる。Web の場合には、クレジットカード決済やコンビニ決済が可能で、サークル参加費(8,000円)とシステム利用料(1,100円)がかかる。
また注意すべき点として、申込時にカタログ掲載用の「サークルカット」が必要だ。もし、申込時にサークルメンバーに絵師がおらず、だれも絵心がなかったとしても、このタイミングで「サークルカット」の提出が求められる。「サークルカット」の仕様は、635 x 903 ピクセルの PNG 形式である。このガイドを参考にして、下手でもいいので、何か用意しておくように。
申込期限
申込期限は意外に早いので十分注意が必要である。特に冬コミ。ウィキペディア1によると、申込期限は、郵送、Web 共にこうなっている。
夏コミ
2月上旬の約1週間
冬コミ
夏コミ前日設営日を初日とし、終了3日後までの約1週間
夏コミ参加の余韻とともに、お盆をボーッと過ごしていると、確実に冬コミの申し込みを逃すことになる。
参加ジャンル
技術系同人サークルが主に参加するジャンルは、大体この2つに分類される。
- 213 同人ソフト
- 600 評論・情報
IT 関連の同人誌は、本来は「同人ソフト」のジャンルで申し込みをすると思うのだが、自分の観測範囲では上記2つのジャンルに半々くらいで分散されているように思える。
「同人ソフト」は、現在最大規模のジャンルの1つとなった「東方Project」界隈が元々活動していたジャンルだ。規模が大きくなりすぎて、ジャンル分割され、現在に至る。「東方Project」のような自主制作ゲームソフトのイメージが強いので、自分のサークルは「評論・情報」のジャンルで参加している。
「評論・情報」ジャンルは、幅広い分野のサークルが参加する「コミケの縮図」と言われるジャンルである。このジャンルを廻るだけでもコミケを堪能することができる。注意点は、毎回「912 男性向(いわゆる男性向け成人漫画)」というジャンルに挟まれるように席が配置される点である。大体、3日目の東1・2・3ホールは、「男性向」と「評論・情報」と「学漫」という3つのジャンルが配置される。何が言いたいかというと、フロア全体が、得も言われぬ熱気を放つ輩ばかりで、なんだか暑いのである。たとえ、冬でも。もし、メンバーに女性を加える場合には、このジャンルは選ぶべきではないだろう。
と、偉そうに書いたが、うちの絵師は女性だった。
原稿を書き始めるタイミング
当落が決まってからでいい。当落が決まる日程は、大体、コミケ当日の2ヶ月くらい前である。C91 の場合は、10月28日だった。コミケ当日の1ヶ月前から20日前くらいまでに印刷所に出す必要があるので、当落決定後の1ヶ月で執筆できるくらいの分量(30ページ前後)が適当だと考えられる。ただし、ネタは日頃から考えておくように。
執筆環境
メンバー全員が Adobe InDesign を持っているならそれに越したことはない。ただ、InDesign を使った共同作業には、当然 GitHub を使うこともできず、ソフトウェアエンジニアが得意とするような開発スタイルに執筆のワークフローを落とし込むことは難しい。
継続的執筆環境
ということから、複数人による共同執筆に必要な条件はこうなる。
- 執筆は複数人同時進行で実施される
- 内容の追加・修正・出戻りは常に発生する
- 他のメンバーの内容のレビューを行う
他にもあるが、こういったことを満たす環境で、かつ、エンジニアがそこそこ馴染んでいるだろうと考えられるツールとして、GitHub + $\rm\TeX$ + Circle CI を利用することをおすすめする。
最近では、Re:VIEW という Ruby 製の原稿フォーマットを使用するサークルもいるそうだが、使ったことがないので、ここでは言及しないでおく。もし、 $\rm\TeX$ に嫌な思い出があり、何があっても二度と触りたくないというのであれば、Re:VIEW を検討しても良いだろう。
GitHub と Circle CI については、まず第一に思いつく選択肢であろう。無料だし。
進捗管理
進捗管理は、GitHub の Issue と Milestone を使うのがいいと思われる。特に、メンバーに〆切を守れなさそうな人がいる場合は。
環境
はっきり言って $\rm\TeX$ とそのマクロ体系である $\rm\LaTeX$ にいい思い出はない。ないんだが、最近は $\rm\TeX$ Live なるものが登場したことにより、$\rm\TeX$ の導入と利用が大幅に楽になっている。何がすごいって、UTF-8 で日本語が通るのである。同人誌執筆のために、およそ10年ぶりくらいに $\rm\TeX$ を触ったが、あまりの進化に感動してしまった。すばらしい。$\rm\TeX$ バンザイ!
で、その $\rm\TeX$ Live の導入方法なのだが、コマンド一発でいける。
sudo apt-get install texlive-full
sudo yum install texlive-*
macOS ほにゃらら、とか、そのパクリである Windows ほにゃらら、みたいな OS 上での導入方法は知らん。そういうフリー(自由という意味)ではない OS 上で $\rm\TeX$ を使っていないんだよねー。
文章クラス
和文の本であるので、定番のjsbook
を使う。加えて、ソースコードを掲載するためには、lstlisting
を使う。ということで、これらを記載しておこう。
\documentclass[9pt,b5paper,tombo,openany]{jsbook}
\setlength{\textwidth}{\fullwidth}\setlength{\evensidemargin}{\oddsidemargin}
latexmk
$\rm\LaTeX$ 用の Makefile である。
#!/usr/bin/perl$out_dir='build';$latex='platex -halt-on-error %O %S';$dvipdf='dvipdfmx -p a4 -x 40 -y 58 %O %S';$pdf_mode=3;$pdf_previewer='exit';
.latexmkrc
ファイルを作成して、latexmk
と打つだけである。すると、build
ディレクトリ配下にデータが生成される。
エディタ
Vim 一択、と言いたいが、不毛な宗教戦争に巻き込まれたくないので、エディタはなんでもいい、と言っておく。
誰か $\rm\TeX$ をリアルタイムプレビューしてくれるエディタ知りませんか?まぁ無理か・・・
表紙絵などのイラスト素材
CMYK or Dead
表紙絵などの印刷データは、必ず CMYK カラーで作成しよう。もし、デジタルカメラで撮影された素材を使う場合、写真のデータは RGB(AdobeRGB、sRGB)で出力される。 CMYK は RGB より色域は狭い。そのため、RGB で作成されたデータをそのまま印刷すると、再現できない領域が CMYK における近似色に置き換えられてしまう。その結果、全体的にくすんだ色味になる。なので、事前に Photoshop で調整しておこう。
1色印刷の場合は、極力モノクロのデータを最初から用意しておこう。
イラストはかわいく
ゲスい話だが、表紙絵がかわいいと売れる。たとえ、中身が空っぽでも、だ。コミケとは、究極のジャケ買いイベントなのである。
アドバイスするとするなら、1色刷り表紙は、よっぽど画力に自信がある人以外はやらないほうがいい。1色刷り表紙が神表紙になる条件はこうだ。
- 線画がうまい
- センスがある
線画だけで相当なレベルで、かつ、インパクトのあるハイセンスなレイアウトを作れないのであれば、彩色してごまかすほうがマシである。
人間は、色でモノを覚える。ごちゃごちゃ何色も使うよりも、メインカラーを決めておくほうがよい。特に夏コミのときは、青空と海を連想させる表紙だとつい買ってしまいたくなるものである。
ということを踏まえたうえで、自分のサークルの前回の夏コミと今回の冬コミの表紙絵を見るとこんな感じである。
夏コミ(C90)
冬コミ(C91)
売れる表紙という視点で参考になるのは、高校野球の女子マネがドラなんちゃらさんとイチャコラしちゃう本2(違う)の表紙である。制服や背景の空など全体的に色調が「青」で統一されている。中身がよくわかんなくても買っちゃいそうになる。事実、中身知らずに買っちゃった人は(僕を含めて)結構いたはず。
入稿
フォントについて
どのフォントを選択するのかという問題はとても重要である。ライセンスの面からも、デザインの面からも。
フォントのライセンス
商用フォントを使用する際には、そのライセンスに十分注意しよう。「商用利用可」という記載があっても、それが Web なのか紙なのかによって規約が異なる場合もある。Adobe 製品に付属するフォントは、Web サイトのデザインにも、印刷物の使用可。果ては、企業ロゴとしての使用も可である。Adobe Creative Cloud を契約していれば、最安のフォトプランであっても、以下のフォントの利用が可能である。
- 小塚ゴシックPr6N
- 小塚明朝Pr6N
ということで、Adobe Typekit のライセンス3は、よく読んでおこう。
そのライセンスから引用すると、
同期フォントを、名刺やロゴの作成などの商用プロジェクトや顧客向けの作業に使用することはできますか。
はい。自分用または顧客のプロジェクト用にデジタルデザインの作成や印刷をおこなうことができます。可能な作業には、PDF ファイルや EPS ファイルの生成、および JPEG、PNG などのビットマップファイルの生成が含まれます。
となっている。また、電子書籍に関しては、
同期フォントを PDF または ebook に埋め込むことはできますか。
はい。Typekit から同期されたフォントを、フォントデータが適切に保護されるすべての ebook 形式のドキュメント(EPUB、iBooks、Kindle(mobi)、アドビの Digital Publishing Suite(DPS)、PDF など)に埋め込むことはライセンスによって認められます。
とのことなので、同人誌を後日電子書籍として配布するときにも安心である。
フォント埋め込み
先程、Adobe Creative Cloud のフォトプランでも小塚フォントが使えるという話をしたが、埋め込みを考えて、やっぱり Adobe Acrobat を買ってしまうのが一番である。
dvipdfmx で出力された PDF データに Acrobat でフォントを埋め込んで、もう一度 PDF として印刷すると、規格にあった PDF が出力される。出力の際には、「プレス品質」を選ぼう。
Acrobat がない場合には、dvipdfmx でもフォント埋め込みは出来る。が、その場合には、IPA フォントになってしまう。実は、mapファイルを自分で書いてしまえば、どんなフォントでも利用可能であるが、その場合にはくれぐれもライセンス厳守でお願いします。
ゴシック体か明朝体か
フォントの書体は大きく「ゴシック体」と「明朝体」に分類できる。「ゴシック体」と「明朝体」の使い分け方は、定石としてこんな感じである。
書体 | 文章の種別 | 例 |
---|---|---|
ゴシック体 | 断定調の文章 | 論述文 |
明朝体 | 会話主体の文章 | 小説 |
同人誌は、「ゴシック体」の方がいい。特に、技術系同人誌の場合には。これが「明朝体」の場合には、すっごくつまらなさそうな本になる。
プロポーショナルフォントか等幅フォントか
フォントは「プロポーショナルフォント」よりも「等幅フォント」を使ったほうが可読性が上がる。この二つのフォントの違いはこうなる(技術系同人誌を書こうと思ってる人に、この違いが分からない人がいるとは思えないが・・・)。
フォント | 特徴 | 例 |
---|---|---|
プロポーショナルフォント | 文字毎に文字幅が異なるフォント | MS P ゴシック |
等幅フォント | 文字毎に文字幅が同じフォント | MS ゴシック |
小塚フォントの場合、漢字、ひらがな、カタカナなどの和文が「等幅フォント」、欧文が「プロポーショナルフォント」のようである。
部数
30部から50部が妥当な部数だと考えられる。よほど自信がある内容でなければ、100部刷っても売れ残ってしまう。在庫管理は往々にして面倒くさいので、当日売り切れる部数にするほうがよい。大体14時を過ぎると弱小サークルに人はもう来ない。その時点で余っていたらもう売れないだろう、と覚悟しておくように。
印刷
自分のサークルでは、POPLS4を使っている。とてもいい印刷所である。以上、宣伝でした。
販売価格
500円が妥当だろう。
POPLS の料金をベースに考えると、A4 で32項までの本を30部刷って、11,630円プラス送料1,000円、合計12,630円かかる。30部で割ると、1冊あたり421円になる。お客さんは、大抵、1,000円札か、500円玉か、100円玉しか持ってないので、そうなると500円がキリの良い価格となる。
お釣りの受け渡しを考慮しても、ワンコインでいけるほうが、何かとスムーズである。販売価格を、300円とか700円に設定してしまうと、一気にレジ運用が大変になる。キューが溜まって捌けなるのを避けるためにも是非とも500円で販売することをおすすめする。それが高いと感じるのであれば、思い切って100円にしてしまおう。
コミケ当日
サークルチケットによる入場は、7時半から9時の間である。寝坊しないように気をつけよう。
サークルチケットには自分のスペース番号が記載されている。入場時にスタッフが半券を切り離すが、半券にもスペース番号がきちんと記載されているので、それを確認しながら自分のスペースに行こう。
当日持っていくもの
- 油性ペン
- 名刺サイズの紙
- 本を立てかけるスタンド
- お金
- コインケース
これで十分である。油性ペンで小さい紙に販売価格を書いて、スタンドに本と一緒に立てかけておけばいい。ポスター掲げてるサークルをよく見るが、あれすっげー高いから!うらやましいけどな!
お金は、1,000円札と500円玉と100円玉を大量にストックしておこう。もし、ストックが少なくても売ってるうちに増える場合が多い。ちなみに、自販機で小銭を崩そうと企んでる人もいると思うが、ビッグサイトの自販機には100円で売ってるドリンクはないので、1,000円札を使って崩す場合、10円玉も用意しておこう。
見本誌
会場についたら、持ってきた同人誌のうち1冊を見本誌として、運営に提出する必要がある。購入済みの申込書セットに見本誌票が添付されているので、それに必要事項をを記載して同人誌の裏表紙の内側に貼り付けて提出する。基本的には、新刊のみ提出すればよい。9時前後に運営が各スペースに取りに来る。もし、取りに来なければ、自分で運営に持っていけばよい。
必要事項は、以下のとおりである。
- 受付番号
- 配置場所
- サークル名
- 誌名
- 頒布価格
- 発行日
近隣サークルへの挨拶
は、した方がいいのだが、「評論・情報」ジャンルのサークルは、例外なくコミュ障なのか知らんが、挨拶されたことは一度もないし、自分もコミュ障なので率先して挨拶したことはない。次の冬コミ(C91)こそは勇気を出して挨拶したい、と此処に宣言しておく。
お昼ご飯
お昼どきの「評論・情報」ジャンルは、周囲が男性向けエロに囲まれてる兼ね合いから、フロアが凄まじく混むのである。一度自分のスペースに座ったら、動けなくなると思っておいたほうがいい。つまり、お昼ご飯を会場で買いに行くタイミングがないのである。
その場合、以下の選択肢が考えられる。
- 朝、お昼ごはんを買ってから会場入りする
- 差し入れを最初から当てにする
- 知人に買ってきてもらう
- お昼ご飯抜き
売れまくって12時位に完売したことによる撤収、もしくは売れなさすぎて途中で諦めることによる撤収、をする場合この限りではない。
おわりに
勢いだけで、こんな長文のポエムを書いてしまった。いや、これ絶対に詩じゃないけどね!せめて、もっと韻を踏みまくっておけばよかったよ!
それはさておき、時間とネタに余裕があれば、コミケ以外の同人イベントにも参加したいんだよね、っていうオチ。
脚注
Wikipedia - コミックマーケット 1.7 サークル参加 ↩
Amazon - もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら ↩
Adobe Typekit - フォントのライセンス ↩